調査に使用した資料関連その他
■寛延盛岡城下図
地図出典:もりおか歴史文化館収蔵『寛延盛岡城下図』
江戸中期(1750年頃)の盛岡城下地図。
歪みは大きいですが、当時の状況を細かに描いており、盛岡の原型を知るための参考になります。もりおか歴史文化館 に申請をしてデータの利用許可を戴きました。
(特別利用(許可書)3もり歴003号)
■城下及近在図
地図出典:もりおか歴史文化館収蔵『城下及近在図』
江戸後期(1860年頃)の盛岡城下地図。
かなり正確な地図で、水路も現況とほぼ一致します。一番よく使う地図です。これも、もりおか歴史文化館 に申請をしてデータの利用許可を戴きました。
(特別利用(許可書)3もり歴003号)
■盛岡市街及付近実測図
出典:発行 盛岡タイムス社「盛岡古地図」の『盛岡市街及付近実測図』より引用
明治43年(1910)5月発行の盛岡市街地図。
盛岡タイムス社、昭和59年(1984)発行の「盛岡古地図」に収録されています。
当時の水路がわかる貴重な資料なのですが、地図としては疑問の残る点もあります。
「実測図」と言う割には、歪みが大きく、明らかな間違いも点在します。また、発行当時の「盛岡市」内のみが記載され、市境界の外は白紙となっており、周辺地域との関連がわかりにくいのも困ります。
著作権がはっきりしないので、サイトでは「引用」に留めています。
■時系列地形図閲覧サイト「今昔マップ on the web」
https://ktgis.net/kjmapw/index.html
出典:「今昔マップ on the web」((C)谷 謙二)
埼玉大学教育学部 谷 謙二さんのサイトにある、明治期以降の新旧の地形図を表示できるサイト。盛岡市では、明治44年(1911)、昭和14年(1939)などの地図を閲覧・現況の地形図と比較などができます。
縮尺が2万5千分の1(1/25000)と小縮尺の地形図なので、市街地内の細かい水路は確認できませんが、 桜川跡、 北上川上水堰 などの調査では大変お世話になりました。
■国土地理院 地図・空中写真閲覧サービス
空中写真(航空写真)の閲覧が行えるだけでなく、400dpiの解像度までなら写真の無料ダウンロードもできます。
さらに詳細な解像度(1200dpi)のものは有料です。
昭和51年(1976)撮影の、旧盛岡劇場付近です。
左が解像度 400dpi 右が解像度 1200dpi
出典:国土地理院 CTO-76-06_C7_37
盛岡市近郊では1948年、1965年、1976年撮影のものをよく使っています。
出典:すべて国土地理院
・1948年(昭和23年) UR1428_CA_136
・1965年(昭和40年) MTO-65-2_C8_13
・1976年(昭和51年) CTO-76-06_C7_37
以上3枚の、鉈屋町周辺を含む写真データは購入しました。本当は盛岡市全体を、高解像度で揃えたいところですが、1枚4,539円+送料940円もしますので、さすがにちょっと・・。その他の航空写真はダウンロードで済ませています。
■グーグル
グーグルマップ、グーグルストリートビュー、グーグルアースと、今では誰もが当たり前のように使っていますが、よく考えるとすごいことです。
グーグルマップの航空写真を主に使って、怪しいところを探し出したり、民地に囲まれて入れない箇所の確認を行っています。
あと以外とよくあるのが「この写真どの場所で撮ったんだっけ?」「どっちの方向を向いて撮ったんだっけ?」というとき、自宅にいながらストリートビューで確認したりしています。
後述するGISデータ との適合性がよいのも助かります。(元々、グーグルマップはGISの技術を利用して作られているから、当たり前なのですが)
調査してきた水路跡のデータを利用して、グーグルマイマップで公開したり、
北上川上水堰 経路 クリックで拡大 出典:グーグル 消えた 北上川上水堰
新旧 黄金競馬場 経路 クリックで拡大 出典:グーグル 上田4丁目と高松2丁目 田圃跡の水路
グーグルアースに読み込ませて3D表示にしてみたりなど。
■登記情報提供サービス
ネット経由で公図や土地建物の登記情報を得られます。利用には登録が必要です。
ある意味、調査の最後の砦です。どう考えても水路跡だと思うけど、どこにも確証がない、という場合、公図を見てそこが水路敷地なのか確認することがあります。
下の公図は、とある場所の、桜川の旧流路をどうしても確定したかったときに取ったもの。予想通りの位置に水路敷地(「水」と記入してある部分)がありました。
また「水」となっておらず、地番の記してある場所でも、その土地の登記情報を取ってみると「地目」(土地の用途)が「用悪水路」になっていることがあり、現在もしくは過去に水路だった、と分かることがあります。
そこまでやらないことが多いのは、やはり現場の物証がないと調べ甲斐がないのと、お金がかかるからです。(公図1枚で362円、登記1物件で332円)
と、以前は思っていたのですが、ネットで公開するからには、ある程度の信憑性を確保すべきと考え、できるだけ確認するようにしています。
盛岡市では、公図は大きく分けて2種類あります。ひとつは「法務局作成地図」。これは近年、現地を測量して作られたもので、かなり正確なものです。
現況に即しているので、公図としては正しい姿なのですが、払い下げられたり、再開発等で無くなった古い道や水路などは、全く記載されていなかったりと、過去を調べるには使いにくいところもあります。
公図のもう1種類は「旧土地台帳附属地図」。これは明治時代に作られた地図が元になっており、土地形状などの正確さは全く当てにできません。また町字ごとに別れて作成されているため、地図としての連続性も絶たれています。(隣の町字とつなげようとしても、境界が歪んでいるので正確に重ねられない)
現況と照らし合わせようとしても、既になくなった地番があったり、土地の位置や大きさが違っていることもあり、どこがどこなのか判読が難しいです。
そのかわり、現存しない古い道や水路などが、昔のまま記載されていることが多く、こちらのほうが私の調査には役立っています。
公図を使った調査に関する考えは「上小路〜梁川間の水路跡2-1 追記1 公図の限界」にも書きましたので、よろしければご覧ください。
■GIS(Geographic Information Systems、地理情報システム)
2020年の秋ぐらいから、GISを使用して、調査したことをまとめたり、机上調査をするようになりました。(こちらにちょっと書きました)
GISを説明することは難しいです。いろいろな本やサイトを見ましたが、未だに「GISとはなにか?」に対する、明快な答えを見たことがないような気がします。
実際に使用してみて、得た説明としては、
「座標情報を共通項として、様々な情報を表示・分析できるシステム」
ではないかと思います。 そう、すべては「座標」なのです。
使用しているツールは、オープンソースの QGIS です。
ただ、私の使っている機能は、
1 現状の地図に、現場の状況を記録する。
2 現状の地図に、古地図や航空写真を重ね合わせる。
基本的にこの2つがほとんどで、大したことはやっていません。
現場で確認してきた水路跡などを、地図上に書き込みます。QGISで書き込むということは「場所」を「座標」データとして記録することになります。正確に位置を特定できるのと、前に紹介したように、他のツールへの座標データ転用 が可能になります。
出典:もりおか歴史文化館収蔵『城下及近在図』、国土地理院
出典:国土地理院 桜川跡を遡る
現状の地図に、古地図や航空写真を重ね合わせる、つまり「座標」を合わせることによって、2種類以上のデータの位置を比較することができます。
現場の痕跡の「座標」が本当に水路跡なのか、古地図・航空写真と比較したり、
逆に古地図・航空写真に見える水路の「座標」から、未発見の水路跡の位置・場所を割り出すことなどもできます。
□ジオリファレンス と ジオリファレンサ
現状の地図と、古地図や航空写真を正確に重ね合わせるには、方角や歪みの修正が不可欠です。昔はフォトショップで伸ばしたり縮めたりと、いろいろやっていたのですが、QGISにはこの「歪み合わせ」を行うツールがあります。
「ジオリファレンサ」(バージョンによって若干名前が違う)と呼ばれるものです。
小さくてわかりにくいですが、左が現状の地図、右が古い航空写真です。
地図の方を正しい「座標」として、航空写真をそれに合わせて変形させます。
その際に「ここは、この位置に合わせる」というポイントを両方に何箇所か打っておきます。(上の赤い点) これをもとに変形が自動的に行われ、地図と重ね合わせできるようになります。
こうやって座標に合わせて変形させることを 座標情報を写真などに付け加えることを「ジオリファレンス」、それを行った上で、変形させるツールを「ジオリファレンサ」と呼んでいます。昔流行ったコンピュータグラフィックスの「モーフィング」に似ています。
こう書くと簡単そうですが、ポイントを打つのがけっこう面倒なのと、変形しても歪みが残ったりして、割と試行錯誤が必要です。
それでも時代を超えて、様々な情報が同じ「座標」に集まるのは、実に面白いです。
□様々なデータの利用
国土地理院を始めとして、各省庁・自治体からGISで利用できる様々なデータが提供されています。
出典:国土地理院
これは 国土地理院からダウンロードできる「基盤地図情報」のデータ をQGISで表示したもの。日本全国の道路・線路・建築物・河川・境界線・等高線などのデータを無料で入手できます。容量が大きく、データ変換の手間などもありますが「元地図」として使用するのに十分な精度です。
私が重宝しているデータとして基盤地図情報の「数値標高モデル」があります。要は標高のデータです。
水路跡を調べていると、ちょっとした標高の違いを知ることで、どの方向に流れていたかを判断したい場合があります。こういう時、地図の5mごとの等高線では全く役に立たず、数十cm単位での高低差を知りたいくらいです。
出典:国土地理院
それで「数値標高モデル」を使って、1mごとの標高を確認できる地図を作ってみました。隣り合う色はわざと別系統にして、境界をはっきりさせます。これもデータ変換や色指定が面倒だったのですが、完成すれば1m単位で盛岡の高低差を視覚化できるため、実に有用なツールとなっております。
□「タイル」と呼ばれるデータ
これはネット経由で表示されるデータです。ブラウザで地図サイトを見ているのと同じ感覚で、QGISの画面に同じ「座標」のデータが表示されます。当たり前ですが、オンラインでないと使用できません。
よく使っているのは 地理院タイルの淡色地図 です。
出典:国土地理院
「盛岡の水路跡を歩く」の「今回の地図」は、このデータを元に作っています。
ちなみに文字入れは、未だにフォトショップで行っています。その方が、早くて簡単で綺麗だからです。
■書籍
よく参考にするのは、以下の2冊(シリーズ)です。
□『もりおかの地名』1990年4月16日、盛岡市
その名の通り、盛岡市内の地名の由来や、現在の場所との関連などについて記載している。俗説などを懐疑的に検証もしており、信頼できると思われる。
□『もりおか物語』全10巻 1973年〜1979年、盛岡の歴史を語る会
明治から昭和にかけて、盛岡の歴史と生活を知ることのできる貴重な資料。ただし口述による部分は、事実の検証を行っていない(行えない)ところもあり、疑問が残る記述もある。
私の調査においては、文章で書かれた書籍は、存在や場所の参考になる程度で、確証に至るものではありません。
電話で「道案内」をしたことがある方は分かると思いますが、経路や位置を言語のみで「正確に」表現するのは大変難しいのです。
「もう一本の桜川 〜 河北の桜川」 のように、文章を読んで気が付いた例外もありました。しかしあれは、ほぼ全ての現場が調査済みだったため分かったのであって、
逆に文章の記述だけから、あの経路を現場で探し出すのは、難しいと思います。
「大清水から鉈屋町 古川跡の水路 鴨入川とはどこなのか?」 のように、なにかすっきりしないまま終わることが多いのです。
やはり私を導くのは、地図、写真、現場の痕跡といった、位置的・物理的証拠なのです。
2023.12.29 修正
2024.9.27 今昔マップのリンクなど追加